三菱重、「海の天使」が狙う巨大発電市場

三菱重、「海の天使」が狙う巨大発電市場 公開日時 2013/10/21

 製品に「愛称」をつけるのは車や家電の世界ではよくあること。だが、モノが風力発電機となると、いささか珍しい。

三菱重工業が「SeaAngel(海の天使)」と乙女チックな名前で呼んで期待を寄せるのが、独自の発電機構を持つ開発中の洋上の巨大風力発電装置だ。
洋上風力発電の市場規模は現状の数千億円から2020年には約6兆円へと急拡大が予想される。
「発電で稼ぐ」三菱重の現時点での稼ぎ頭は原子力や火力だが、その将来性は不透明。
「天使」の導きで新たな収益源にたどり着くことはできるのだろうか。

三菱重は洋上風力発電で独シーメンスの牙城に挑む
(事業化を進める洋上風力発電設備のイメージ図)(略)

 英語で「Sea Angel」と言えばクリオネのこと。だが、三菱重の洋上風力発電機「SeaAngel」は、流氷の間を浮遊する微小な生物とは似ても似つかぬ巨大な構造物だ。出力7メガ(メガは100万)ワットの風車の羽根の一片は80メートルだから、風車の直径は約170メートル。それが100メートルを超える支柱に設置された姿は、さながら海上にそびえる高層ビルだ。現在、横浜市の工場で陸上に設置して実証試験を進めているほか、14年以降は英国や日本でも複数設置して実証試験を本格化する。

 「SeaAngel」の特徴は、風車の中心部に羽根の回転を発電機に伝える油圧ドライブトレイン(DDT)と呼ぶ発電機構を備えており、油圧ポンプや油圧モーターをデジタル制御すること。歯車を使う従来方式に比べて、大きな風車にも対応しやすくメンテナンスも比較的容易な利点がある。洋上風車は設置場所が海だけに建設や保守にかかるコストが大きい。発電所として経済的に成立させるには、風車1基当たりの発電出力を増やし、風車の数をなるべく減らす必要がある。DDTを備えた「SeaAngel」は巨大化の切り札、というわけだ。

「SeaAngel」の技術は、10年に英国のベンチャー企業を買収して取り込んだ。さらなる一手が9月27日に発表したデンマーク企業との提携。洋上風車で世界2位のヴェスタスと来春をメドに50%ずつ出資して合弁会社を設立、洋上風車の開発から生産、アフターサービスまで一貫して手掛ける計画を進めている。

 三菱重は陸上風車では30年以上の歴史があり、計4200基以上の納入実績がある。だが洋上では事業ベースの実績がない。既に581基の洋上風車を建てた実績を持つヴェスタスと組むことで「洋上風車における豊富な知見、顧客ニーズをくみ取ることができる」(三菱重の和仁正文取締役常務執行役員)。約25%のシェアを持つヴェスタスを巻き込み、50%のシェアを握る独シーメンスを追撃する。

 両社の提携は昨年夏の段階で協議入りが伝えられ、株式市場でも材料視された。洋上風車世界2位のヴェスタスは、陸上風車でも世界首位のシェアを持つが、陸上は価格競争が激しく採算が悪化している。12年12月期まで2期連続で最終赤字を計上。当初は救済的な色彩の濃い、ヴェスタス本体への直接出資が取り沙汰され、「投資家から懸念の声が上がっていた。結局、洋上風車に限って事業を統合した三菱重の決断はポジティブ」とバークレイズ証券の境田邦夫アナリストは評価する。

 出資の仕方もしたたかだ。三菱重はまず1億ユーロ(約133億円)を合弁会社に出資。ヴェスタスが既に市場投入している3メガワット機と、今後発売する大型の8メガワット機で事業を進める。同時に「本命」のDDTを使った大型「SeaAngel」の開発に力を注ぐ。これらがうまくいけば2億ユーロを追加出資。そして洋上風車の市場が欧州で本格的に広がり始めるとみられる16年にコールオプション(買う権利)を行使して、出資比率を51%に引き上げ、持ち分法適用会社から連結子会社に格上げする予定だ。初めからは深入りせずリスクを抑える狙いが見える。

足元の三菱重の業績は好調だ。火力発電に使うガスタービン原動機事業がけん引し、14年3月期の連結営業利益/dxは過去最高(1997年3月期の1981億円)を更新する可能性がある。市場予測の平均値は2100億円強だ。だが、株価は上値が重い。米国の原子力発電所の廃炉問題で損害賠償を求められていることなどから、18日の終値は624円と5月の年初来高値から2割安い水準。

 洋上風力発電は石炭火力や原子力に代わるエネルギーとして、特に英国やドイツなど欧州で期待が大きい。陸上風車に比べて騒音や景観の問題が少なく、設置スペースの制約も小さいためだ。欧州で実績を積めば、四方を海で囲まれる日本も有望な市場になり得る。既に官民で事業化を狙う動きが進んでいる。さらには中国でも建設が相次ぐ見通し。

 その割には、三菱重は洋上風力発電について「ヴェスタスとの新会社で16年度の黒字を目指す」(和仁取締役常務執行役員)と慎重な姿勢を崩さない。だが、エネルギーを巡る世界の潮流には大きな変化が起きている。火力、原子力、風力……どの方式が伸びても勝ち抜く総合力が重要。「海の天使」が吹かす追い風が必要だ。(鳳山太成)



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